はじめに
この記事は、『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(フィリッパ・ペリー著、高山真由美訳、日本経済新聞出版)の第2章と第3章を読んで、筆者が印象に残ったポイントを紹介し、考えをまとめたものです。
今回は試験的に、1冊の本について複数記事を書くことにしました。先に第1章についての記事は公開済みですし、続きも順次公開予定ですので、気になったところだけでも目を通していただけたらと思います。
筆者の解釈が多分に含まれる内容となっている点をご理解ください。また、本書の具体的な内容について触れるため、一部ネタバレを含む可能性があることもご了承ください。
本書の魅力と概要
本書の第2章では、意見の対立や価値観の違いを前にしたとき、私たちが陥りがちな思い込みや防衛反応を見つめ直すよう促されます。
「正しさ」を振りかざすのではなく、相手の背景や感情に目を向け、言葉の裏にある思いに耳を傾ける姿勢の大切さが、豊富な実例とともに示されています。
また、第3章では、人生で直面する様々な出来事、例えば別れや喪失、老いにどう向き合い、どう乗り越えていくかが語られます。
変化に対して無理に前向きになるのではなく、自分のペースで受け止め、時に立ち止まることも尊重する姿勢が、読む者の心に深く響きます。
対話と変化──2つの章を通して、本書は「わかり合えなさ」や「避けられない痛み」と誠実に向き合うことの大切さを教えてくれます。自分や他者との関係をもう一度見つめ直したいとき、そっと寄り添ってくれる一冊です。
対立の原因を整理せよ
人は困難に直面したとき、「考える」「感じる」「行動する」という3つの異なるアプローチをとると説明されています。これらはまるで“対処のドア”のようなもので、どのドアが今開いているのかを見極めることが、建設的な議論の第一歩だと著者は説きます。なかなか理解しにくいので、本書の例を援用します。
本書では、ある女性と脳卒中で発作を起こした夫の事例が挙げられています。夫は科学者で、頭で考えることに慣れきっているため、女性が実際に体を動かしてリハビリするよう促しても聞く耳を持たないとのことです。そしてそのせいで女性側にも苛立ちが募っているという状況です。
このとき夫が取っている対処法は「考える」であり、「行動」のドアは閉じ、「感情」のドアには鍵がかかっている状態です。それに対し、女性が取っている対処法は「行動する」と「感じる」であり、「思考」のドアは閉じている状態です。開いているドアが違うから、対立が生じたということです。
このように、困難に対するアプローチの違いを整理することで、対立を解消するためにすべきことが見えてきます。この場合だと、例えば、実際に体を動かしてリハビリに取り組むことの有効性について検証した科学的な記事を探し、夫に読んでもらうといったやり方が考えられます。
違いに苛立つのではなく、それぞれの反応を理解することが、問題解決への道を開きます。議論とは勝ち負けを競うものではなく、相互理解に向けた対話であるべきなのです。
「正しさ」の呪縛から自由になる
私たちはつい、自分が正しいと信じ、相手を間違っていると決めつけがちです。間違いは恥や罪悪感、断罪されることにつながるので、避けようとすることは自然なことです。しかし、そこに固執すると議論は堂々巡りになり、対立の解消からは遠のくばかりです。
そこで著者は、相手を「悪人」に仕立てるのではなく、その背景や人生に思いを馳せてみることを提案しています。
本書では、ある男性と、男性の姉が放った差別的なジョークに関する事例が紹介されていました。この男性は地方から都会に出て様々な価値観に触れていたため、姉の言動が耐えがたいものに思え、思わず姉の人格まで攻撃するような責め方をしてしまったということです。
おそらく姉にとってそのジョーク深い意味はなかったのに、男性は自身の価値観、見方に従って判断した結果、姉を「悪人」に仕立て上げ、本来関係のないはずの姉の人格にまで攻撃してしまったのだということです。
相手の行動が自分だったらどういう意味になるかではなく、「相手にとってどういう意味を持つのか」を、相手の背景にまで踏み込んで想像することが大切なのです。
関係を終わらせる勇気
人間関係において、すれ違いや衝突は避けられません。これまでは、そのような対立をいかに乗り越えていくかに焦点を当てた説明がなされていました。
しかし、どうしても妥協点が見いだせなければ、ときには関係を終わらせることも現実問題として必要です。その決断に罪悪感を抱く必要はありません。このことに関して、著者は以下のような思いやりに満ちたメッセージを読者に贈っています。
人生をひどく窮屈なものにする相手との関係を絶つことに許可がほしいなら、いまここで私が許可します。言い訳をする必要はありません。あなたがいやな思いをしているというだけで理由としては充分です。
また、それでも罪悪感を覚えるという人に向けて筆者は、「罪悪感のほうが、恨みがましい気持ちよりまし」という言葉を繰り返し伝えています。
他者を傷つけないようにと自分を犠牲にし続けるよりも、自分の感情や幸せを大切にすることが、長い目で見ればすべての人にとって優しい選択となるのです。なぜならば、自分を犠牲にし続けることは、犠牲を強いている相手への恨みに繋がるからです。
変化は不安とともにやってくる
変化は人生において避けられないものです。そして、人生は変化しているのに自分は変化しないままでいると、いずれ行き詰まるのは必然です。そのため、自分自身も変化することが重要です。
しかし、変わるためにはまず自分の思考や習慣に気づき、それを意識的に変えていく必要があります。著者はこのことを、高速道路とジャングルの探検に例えています。
高速道路とは古い習慣のことで、たいして意識せずとも走行できてしまいます。一方ジャングルの探検は、道なき道を鉈を振りかざしながら進むことになり、当然、進むためには多大な労力が必要となります。しかし、いくら高速道路が快適であろうと、目的地にまで道が繋がっていなければ意味がありません。
自分を変えるというのも同じことです。もちろん、新たな道を切り拓く過程で、失敗することもあるでしょう。しかし、失敗を恐れて行動しないというの1つの選択であり、この選択が結果的に間違っているという可能性も忘れてはいけません。
それに、失敗を重ねていくうちに、次は成功する確率が高まっていくという考え方もあります。最後に、変化に挑む人に向けた著者のメッセージを引用したいと思います。
変化を、未知の恐るべきものと思うのではなく、自分の望みを明らかにし、それを追求するための1つのチャンスと受けとめてください。最初は、どこに着地するかわからないままロープを手放すような気分になるかもしれません。きっと怖いでしょう。しかしたいていの場合、足のほんの5センチ下に堅い地面があるものです。
おわりに
ここまでお読みいただきありがとうございました。
本記事では、『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(フィリッパ・ペリー著、高山真由美訳、日本経済新聞出版)の第2章と第3章を読んで、筆者が興味深いと思ったところを紹介しました。
この記事が、読者の皆様の日々の悩みを解決するための一助になれば、筆者としても大変嬉しく思います。
まだ最後の章についての記事が書けていませんので、もしこの記事をいいなと思っていただけたなら、またお立ち寄りください。
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